義肢装具学のための知識
重心と力学的安定について

北海道科学大学 保健医療学部 義肢装具学科(昆 恵介)

 義肢装具で力学を考えていくときには,まず重心について考えていく必要がある.右図は長方形の物体とその重心位置を表している.右図の色が濃くなっている物体の底面の縁から縁の間の面積のことを支持基底面という.支持基底面は安定性に関与し,面積が広ければ広いほど力学的に安定する.四輪の自動車と2輪のバイクとではどちらが安定しているかは説明するまでもないが,当然自動車のほうが,支持基底面が広いために安定する.また右図のように杖で体を支えれば杖の分支持基底面が広がり安定性は増す.ではなぜ4輪自動車や杖をついたときの方が安定するのか,力学的に考えてみる.

 

4--1.力学的安定について

 ティッシュ箱などをテーブルに立て,上端を右から左に押して,ゆっくり傾けてもらいたい.横から見た長方形の中心.すなわち重心が下の一辺より左に出た瞬間,パタリと倒れるのが観察できるだろう.物体は重心が床に接した縁の上を越えた時に始めて転倒するのだ).支持基底面を杖をつくなどして広くした場合には,支持基底面から重心が外れにくくなり安定する.ということは重心位置の高さによっても力学的安定性は変化する.右下図のように重心位置が上方にある場合,少ない傾きで重心が一辺の縁より逸脱しやすく不安定である.

 

 

 

 右図のように重心位置の高さの違いでどちら安定性が増すか考えてみる.成人男性の平均的な重心位置の高さは床面からおよそ56%の位置あり,4歳時の重心位置は頭部が大きい分,重心位置が高くなり,床面からおよそ57%の位置にあるとされる2).このことからすると,重心位置の低い成人のほうが安定してそうだ.確かに幼児は転びやすい.これらから力学的不安定が幼児の転倒しやすさの原因のひとつになっていることがわかる.

しかし一つ注意したいことがある,力学的な安定を論じるときには,上図のように,身長に対して重心位置が何%というような形で相対的な位置関係でしか論じることができない.その証拠に実際の絶対的距離で比較した場合には右下図にようになり,当然幼児の重心位置のほうが低くなってしまう.重心の力学的安定を考慮する場合にはあくまでも右上図のように相対的な位置関係が低い場合に限るのである.



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