義肢装具学のための知識
慣性と慣性力の違いについて

北海道科学大学 保健医療学部 義肢装具学科(昆 恵介)

慣性について

4-2-1.慣性と慣性力の違いについて

 力学を考える上で重要となる3つの法則がある。俗にニュートンの3大法則ともいう。

1)慣性の法則

2)運動方程式

3)作用・反作用の法則

である。どこかで用語くらいは聞いたことはあろう。多くの書物において、ニュートン力学は主として慣性の法則について説明しているが、しばしば慣性と慣性力を混同している人をみかけるので、この節では、あえてその違いについて説明することにした。

1)慣性について

慣性とは「物体が常に現在の運動状態を保とうとする性質」のこと3)をいう。“軽いものはゆっくり落ちる”とか、前節の車の衝突の話を例にとれば、“衝突された自動車はやがて止まる”なんて思ってはいけない。軽いものがゆっくりと落ちるのは空気の摩擦力のためであり、衝突された自動車が止まるのは、アスファルトとタイヤの摩擦力によるものである。物体は運動状態を保とうとするけれど、邪魔する力があるから、このようなことが起こるのである。この邪魔する力がなければ、「現在の運動状態を保つ」という性質により、物体は運動状態を変えることはない。つまり水を張った氷のように摩擦力が極めて低い路面で衝突されれば、衝突された自動車はなかなか止まりにくいことは容易に想像できるはずである。これが慣性であり、ニュートン力学における慣性の法則なのである。したがって慣性の法則では静止している物体は静止し続け、また運動している物体は運動をし続けるということになる。










右図のように停車している車にバイクが時速30kmで衝突した場合に前方へ移動するという運動状態を保持しようと慣性が働く、右図のような場合であると運動エネルギーが100%伝達されたため、衝突した瞬間に時速30kmで斜め前方に飛んでいくことになる。逆に右下図のように運動エネルギーを100%人間が吸収してしまうと、30km/hで衝突した衝撃を受けてしまうことになる。野球のデッドボールなどで、ボールがぽとりと落ちるような当たり方は、運動エネルギーを100%体が吸収してしまうため、危険なデッドボールとされる。

 




2)慣性力について3)

一方で慣性力とは何か考えてみる。これは日常的によく感じる力である。電車、自転車、飛行機など乗り物が発車するときや、停車するときに、何か“力”を受けるだろう。「おっとっと」と転びそうになることを感じるはずである。この見えない力のことを慣性力といっている。例えば電車が急発進したときには進行方向とは逆向きに慣性力が感じられる。これは重力や接触力による影響ではない、単なる見かけの力なのである。なぜならば、この慣性力というのは電車に乗っている人だけが感じることができる力だからである。感じる力といっても実在する力ではない。もし電車の床がツルツルで摩擦がなかったら、電車が動いても、人はプラットフォームに対して動かない。でも電車にのっている人には自分が後に進んでいるように感じてしまう。そんなわけで、この慣性力のことをみかけの力と呼ぶのである。

結局のところ、慣性と慣性力では何が違うのかというと、
1)慣性はプラットフォームから電車の中の物体の運動を観測している状態で、電車が発車しても、もとの場所に留まろうとする慣性の法則が働くのに対し、
2)慣性力では電車に乗っている人にしか観測することができない
見かけの力のことをいう。

 

 

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